相続した実家を売ったとき、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける——。そんな大きな控除があることを、ご存じでしょうか。「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」、いわゆる 空き家特例 です。
控除額が大きいぶん、使えるかどうかで手元に残る金額は大きく変わります。ところがこの特例は要件がとても細かく、「自分は対象なのか分からない」「知らないまま売って、控除を逃してしまった」という方が後を絶ちません。
そこでこの記事では、空き家特例の要件を「人」「家屋」「売り方」「期限・金額」の4つの軸で整理し、老人ホームに入居していたケースの扱いや、必要書類・手続きの流れまでをくわしく解説します。読み終えるころには、ご自身が対象になりそうかどうかの見当がつくはずです。
空き家の3000万円特別控除とは
この特例は、増え続ける空き家の発生を抑えることを目的に設けられた制度です。相続または遺贈で取得した「被相続人が住んでいた家屋とその敷地」を売却し、一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます(国税庁 No.3306)。
譲渡所得は「売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算され、その利益に税金がかかります。ここから3,000万円を差し引けるため、利益が3,000万円以下であれば税額がゼロになることも。効果は非常に大きい特例です。
適用の対象となるのは、平成28年4月1日から 令和9年(2027年)12月31日 までの間に行う譲渡。制度そのものに期限があるため、該当しそうな方は早めの確認をおすすめします。
適用を受けるための要件
空き家特例は、要件を一つでも満たさないと適用できません。ここが最大のポイントです。順番に見ていきましょう。
「人」の要件
まず、特例を使えるのは、相続または遺贈によって家屋・敷地を取得した個人 です。遺贈とは、遺言によって財産を受け取ること。法人が取得した場合は対象外になります。亡くなった方(被相続人)から不動産を引き継いだ相続人が、売却の主体になるイメージです。
「家屋」の要件
対象となる家屋には、次の条件があります。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたものであること
- マンションなどの区分所有建物登記がされた建物でないこと
- 相続の開始の直前に、被相続人が一人で住んでいたこと(被相続人以外に同居者がいなかったこと)
「昭和56年5月31日」という日付は、旧耐震基準の建物を対象にしているためです。この特例は「古い空き家を、耐震化するか取り壊して流通させる」ことを狙っているので、新しい家屋は対象になりません。また、被相続人が一人暮らしだったことが前提になる点も、見落としやすい要件のひとつです。
「売り方」の要件
家屋をそのまま売ればよい、というわけではない点に注意が必要です。原則として、次のいずれかの形で売る必要があります。
- 耐震リフォームをして、耐震基準に適合させた家屋(とその敷地)を売る
- 家屋を取り壊し、更地にして敷地を売る
つまり、旧耐震のまま建物を残して売ると、原則として特例は使えません。ただし、令和6年1月1日以後の譲渡からは要件が緩和され、売買契約に基づいて買主が、引き渡し後の翌年2月15日までに耐震改修または取り壊しを行う場合 も対象に加わりました(国土交通省)。売主側で工事を済ませておかなくてよくなったぶん、使いやすくなっています。
「期限・金額」の要件
期限と金額にも条件があります。
- 期限:相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 金額:売却代金が1億円以下であること
期限は「相続開始から3年ちょうど」ではなく「3年を経過する日の属する年の12月31日まで」と、年末までの猶予がある点がポイントです。たとえば2024年5月に相続が始まった場合、2027年12月31日までが期限になります。また、売却代金が1億円を超えると特例は使えません。複数の相続人が時期をずらして売ったり、敷地を分割して売ったりした場合は、それらを合算して1億円以下かどうかを判定する点にも注意してください。
相続人が3人以上のときは2,000万円に減額
令和6年1月1日以後に行う譲渡では、金額の面でもう一つ変更があります。同じ被相続人から家屋・敷地を相続または遺贈で取得した相続人の数が 3人以上の場合、控除額が一人あたり3,000万円ではなく2,000万円に下がります(国税庁 No.3306)。
きょうだいが多く、共有で相続したようなケースでは、この点が効いてきます。控除額が変われば税額の見込みも変わるため、相続人の人数は早めに確認しておきましょう。
老人ホームに入居していた場合でも使えることがある
「被相続人は亡くなる前、老人ホームに入っていた。だから空き家特例は使えないのでは?」——そう諦めてしまう方がいます。ところが、一定の要件を満たせば対象になり得ます(国税庁 No.3307)。
具体的には、主に次の条件を満たす場合です。
- 被相続人が、相続開始の直前に要介護認定・要支援認定(または障害支援区分の認定)を受けていたこと
- 養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、法律で定められた施設に入居・入所していたこと
- 入居の直前まで、その家屋に被相続人以外の居住者がいなかったこと
- 入居後、相続開始の直前まで、その家屋が事業用・貸付用・他人の居住用に使われていなかったこと(被相続人の物品保管などに使われている状態であること)
認定を受けていたかどうかは、入居した時点ではなく 相続開始の直前 で判定されます。入居後に認定を受けた場合でも、亡くなる直前に認定を受けていれば要件を満たし得る、という点は知っておくと役立つでしょう。一人暮らしだった親が施設に移ったあと空き家になっていた、というのはよくあるケース。ここを正しく押さえられるかどうかで、適用の可否が変わってきます。
必要書類と手続きの流れ
空き家特例を使うには、確定申告に加えて、市区町村が発行する書類が必要になります。
カギになるのが「被相続人居住用家屋等確認書」です。これは、対象家屋が要件(被相続人が住んでいた、相続後ずっと空き家だった、など)を満たすことを市区町村が確認した書類で、家屋の所在地の役所窓口で交付を受けます。申請には電気・ガス・水道の使用状況が分かる書類など複数の添付資料が必要で、発行までに2週間程度、場合によってはそれ以上かかる こともあります。確定申告の直前になって慌てないよう、売却が決まったら早めに準備を始めるのが安心です。
確定申告で必要になる主な書類は、次のとおり。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕
- 売った資産の登記事項証明書など
- 被相続人居住用家屋等確認書
- (耐震リフォームをした場合)耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し
- 売買契約書の写しなど、売却代金が1億円以下であることを示すもの
申告の時期は、売却した翌年の2月16日〜3月15日が目安です。なお、特例を使った結果、納税額がゼロになる場合でも 確定申告は必須。申告をしなければ、そもそも特例は適用されません。
他の特例との関係
最後に、よく混同される他の特例との関係を整理しておきます。
ひとつは、取得費加算の特例 との関係です。相続税を納めた人が一定期間内に売却した場合に、相続税の一部を取得費に加算できる制度ですが、これと空き家特例は 併用できません。両方の要件を満たすときは、効果が大きいほうを選ぶことになります。
もうひとつは、相続税の 小規模宅地等の特例 との関係。こちらは相続税を計算するときに宅地の評価額を下げる制度で、所得税側の空き家特例とは別の制度です。そのため、それぞれの要件を満たせば 併用が可能 です。ただし、空き家特例は「被相続人が一人で住んでいたこと」が前提になるため、実際に両方を使えるのは、被相続人と相続人が生前に別居していた場合などに限られます。このあたりは判断が難しいため、専門家のシミュレーションを受けると安心でしょう。
まとめ
空き家の3000万円特別控除は、使えれば税負担を大きく減らせる、効果の大きな制度です。一方で「人」「家屋」「売り方」「期限・金額」と要件が細かく、一つでも欠けると適用できません。老人ホーム入居のケースや、相続人3人以上での減額、必要書類の準備期間など、見落としやすいポイントも多くあります。
「自分のケースで使えるのか」を正確に判断するには、物件と相続の状況を踏まえた個別の確認が欠かせません。せっかくの控除を逃してしまう前に、ぜひ一度、当社にご相談ください。要件に当てはまるかの整理から、売り方の検討、必要書類の準備まで、状況に合わせてサポートいたします。
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※本記事は一般的な制度の概要を解説したものです。適用要件・控除額・期限などは税制改正により変わる可能性があります。実際の適用にあたっては、国税庁の最新情報や税理士などの専門家に必ずご確認ください。
監修:宅地建物取引士 ○○○○