相続した不動産を売るとき、最初に頭をよぎる不安は「税金」ではないでしょうか。いくらかかるのか、どうすれば抑えられるのか、そもそも申告は必要なのか——。慣れない手続きが続くなかで税金のことまで考えると、気が重くなりますよね。
この記事では、相続した不動産を売却したときにかかる税金の基本から、知っているかどうかで負担が大きく変わる特例、そして確定申告の要否までを、順を追って整理します。ポイントさえ押さえれば、相続した不動産の売却は決して怖いものではありません。正しく特例を使うことで、手元に残る金額は大きく変わってきます。
相続した不動産を売却するまでの流れ
相続した不動産の売却は、おおまかに次の4つのステップで進みます。
まずは ①相続登記(名義変更) から。亡くなった方の名義のままでは不動産を売ることができないため、相続人へ名義を移す手続きが最初の関門になります。続いて ②査定 です。不動産会社に物件の価値を見てもらい、売り出し価格を検討していきます。そして ③売却(媒介契約・引き渡し)。買主が見つかり、引き渡しと代金の受け取りが完了すれば、売却そのものは一段落です。最後が ④翌年の確定申告。売却で利益が出た場合などには、翌年に申告が必要になります。
ここで一点、見落とせない変化があります。2024年(令和6年)4月1日から、相続登記が義務化 されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になります。施行日より前に相続した不動産も対象で、その場合の期限は2027年(令和9年)3月31日まで。「いずれやればいい」と名義変更を後回しにしてきた方は、早めの対応をおすすめします。
各ステップの詳しい中身は、このあと税金を中心に見ていきましょう。
相続した不動産の売却にかかる税金
相続した不動産を売って利益が出ると、その利益(譲渡所得)に対して税金がかかります。ここで大切なのは、「売れた金額そのもの」に課税されるわけではない、という点。あくまで“もうけ”に当たる部分だけが対象です。まずは、その計算のしくみから整理していきます。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、次の式で求めます。
譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)
取得費とは、その不動産を買ったときの代金や、購入時の手数料などのこと。譲渡費用は、売るために直接かかった費用で、仲介手数料・印紙代・測量費などが含まれます。これらを売却価格から差し引いた残りが、課税の対象になる利益です。
相続した不動産で特に大切なのが、この取得費の考え方。相続の場合、取得費は 被相続人(亡くなった方)が買ったときの金額をそのまま引き継ぎます。つまり、あなたが相続で「もらった」時点の評価額ではなく、親などが何十年も前に購入したときの代金が基準になるわけです。
ここで問題になりやすいのが、「親がいくらで買ったのか分からない」というケースです。古い不動産では、購入時の契約書や領収書が残っていないことも珍しくありません。その場合は、売却価格の5%を取得費とみなす「概算取得費」 が使えます。ただし、概算取得費を使うと取得費がかなり小さくなり、結果として利益が大きく計算されて税金も増えがち。できる限り、購入当時の資料を探してみることをおすすめします。
所有期間で税率が変わる(長期・短期)
譲渡所得にかかる税率は、その不動産を「どれくらいの期間持っていたか」で大きく変わります。所有期間が5年を超えれば 長期譲渡所得、5年以下なら 短期譲渡所得 です。具体的な税率は、次のとおり(復興特別所得税を含みます)。
| 区分 | 所有期間 | 税率(合計) | 内訳 |
|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 20.315% | 所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5% |
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 39.63% | 所得税30%・復興特別所得税0.63%・住民税9% |
税率にほぼ2倍の差があるため、長期か短期かは納税額を大きく左右します。なお、この所有期間は 「売った年の1月1日時点」で判定する 点に注意してください。たとえば令和7年中に売却する場合、その不動産を令和元年12月31日以前から持っていれば長期、令和2年1月1日以降に取得していれば短期、という数え方になります。
そして、相続不動産でぜひ知っておきたいのが所有期間の考え方です。先ほどの取得費と同じく、所有期間も被相続人が取得した日を引き継ぎます。「相続してまだ1年だから、短期で高い税率になってしまうのでは」と心配される方は多いのですが、被相続人が5年を超えて所有していれば、相続後すぐに売っても長期譲渡所得として扱われるのが原則です。ここを誤解して損をしてしまうのは、とてももったいないこと。落ち着いて確認していきましょう。
知らないと損する2つの特例
相続した不動産の売却では、条件を満たせば税負担を大きく軽くできる特例があります。代表的なものが次の2つ。どちらも「知らなかった」では済まされないほど効果が大きい制度です。
取得費加算の特例
相続税を納めた人が一定期間内に相続財産を売却した場合に、納めた相続税の一部を取得費に加算できる 制度です。取得費が増えればその分だけ譲渡所得(利益)が小さくなり、譲渡所得税が軽くなるしくみ。相続税と譲渡所得税を短い期間で続けて負担する人の重さを、やわらげる狙いがあります。
適用を受けるには、主に次の3つの要件を満たす必要があります。
- 相続または遺贈により財産を取得した人であること
- その人に相続税が課税されていること
- 相続開始のあった日の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却していること
3つ目の期限が、よく言われる「3年以内」の正体です。相続税の申告期限は相続開始から原則10か月以内なので、両者を合わせると 「亡くなった日からおよそ3年10か月以内」 が目安になります。「相続した土地は3年以内に売ると得」と言われる背景には、この特例があるわけですね。
ひとつ注意したいのは、この特例は 相続税を実際に納めた人だけ が使えるという点。相続税がかからなかった、あるいは各種控除で納税額が0円だった場合は、加算できる相続税額がないため対象外になります。まずは自分が使える立場かどうかを確かめておきましょう。
空き家の3000万円特別控除
被相続人が一人暮らしをしていた家(とその敷地)を相続して売却したときに、譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける 特例です。正式には「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」といいます。控除額が大きいため、うまく使えれば税額がゼロになることもあります。
ただし、要件はかなり細かく定められています。主なものを挙げると——
- 昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること
- マンションなどの区分所有建物でないこと
- 相続の開始直前まで被相続人が一人で住んでいたこと(老人ホーム入居など、一定の場合も対象になり得ます)
- 売却代金が1億円以下であること
- 家屋を耐震リフォームして売るか、取り壊して更地で売ること
なお、令和6年1月1日以降の譲渡からは、買主が引き渡し後の翌年2月15日までに耐震改修または取り壊しを行う場合も対象に加わりました。一方で、同じ相続で家屋・敷地を取得した相続人が3人以上いるときは、控除額が1人あたり2,000万円に下がる点にも留意が必要です。
適用期限は、原則として 相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。さらに、制度そのものの期限が令和9年(2027年)12月31日までとされています。要件確認に加え、市区町村で「被相続人居住用家屋等確認書」を取得する手続きなど、準備に時間がかかることもあるため、早めの着手が安心でしょう。
💡 2つの特例は併用できません。 取得費加算の特例と空き家の3000万円特別控除は、どちらか一方を選ぶ形になります。両方の要件を満たす場合は、効果が大きいほうを選択しましょう。
※空き家特例の詳しい要件や必要書類は、別記事「空き家の3000万円特別控除」でくわしく解説しています。あわせてご覧ください。
確定申告は必要?
売却で利益(譲渡益)が出たら、原則として確定申告が必要です。申告と納税の時期は、売却した翌年の2月16日〜3月15日ごろが目安になります。
ここで誤解しやすいのが、特例を使うケース です。「特例で税額が0円になるなら、申告もいらないのでは?」と考えてしまいがちですが、実はその逆。取得費加算の特例も空き家の3000万円特別控除も、確定申告をして初めて適用される 制度です。つまり、特例で納税額がゼロになる場合こそ、申告は欠かせません。申告を忘れると特例が使えず、本来は払わなくてよかった税金を納めることにもなりかねないのです。
一方、売却して損失が出た(譲渡益がない)場合は、原則として申告の義務はありません。とはいえ、状況によっては申告したほうが有利になることもあります。判断に迷うときは、自己流で済ませず専門家に相談すると安心です。
相続人が複数いる場合の売却
きょうだいなど相続人が複数いる不動産では、売り方そのものにも検討が必要になります。
よく選ばれるのが 換価分割 です。不動産を売って現金に換え、その現金を相続人で分ける方法で、「物件は分けにくいけれど、お金なら公平に分けやすい」という場面に向いています。これに対して、特定の相続人が不動産を受け取り、ほかの相続人へ金銭(代償金)を支払って調整するのが 代償分割。どちらが適しているかは、相続人それぞれの希望や物件の状況によって変わってきます。
また、共有名義のまま売却する場合は、共有者全員の同意 が前提です。一人でも反対すれば、売却は前に進みません。意見の食い違いから手続きが長引いた結果、先ほど紹介した各種特例の期限に間に合わなくなる——そんなケースも実際にあります。相続人が複数いるなら、早い段階で方針をすり合わせ、必要に応じて専門家を交えて進めることが、トラブルを避ける近道になるでしょう。
まとめ
最後に、要点を3つに整理しておきます。
- 税金は「利益(譲渡所得)」にかかる。 取得費も所有期間も被相続人から引き継ぐため、相続後すぐ売っても長期譲渡(低い税率)になることが多い。
- 特例を使えば負担は大きく変わる。 「取得費加算の特例」「空き家の3000万円特別控除」など、期限と要件の確認がカギ。
- 特例の適用には確定申告が必須。 たとえ税額が0円でも、申告をしなければ特例は受けられない。
税金や特例の判断は、物件の状態や相続の状況によって、一つひとつ変わってきます。「自分のケースではどうなるのか」を正確に知るには、個別の確認が欠かせません。相続した不動産の売却をお考えなら、自己判断で損をしてしまう前に、ぜひ一度、当社にご相談ください。査定から税金の考え方、特例が使えるかどうかの整理まで、お客様の状況に合わせてサポートいたします。
※本記事は一般的な制度の概要を解説したものです。税率・控除額・適用要件・期限などは、税制改正によって変わる可能性があります。実際の適用にあたっては、国税庁の最新情報や、税理士などの専門家に必ずご確認ください。
監修:宅地建物取引士 ○○○○