装置の一部分から、装置全体へ。CADの中で成立する設計ではなく、組み、直し、使う人の手元まで考える設計になるまで。
大きな会社で、
装置の一部分を
担当していた
前職では自動車部品の生産ラインを担当していましたが、何十メートルもある設備のうち、私が受け持っていたのは搬送工程の一部分でした。決められた区間の中で、どうすれば速く、確実にワークを送れるかを考える仕事です。専門性という意味では、確かに身についたと思います。
ただ、その設備が何のために導入されたのか、顧客が何に困っていたのかまでは見えませんでした。仕様は上流から降りてきて、私はそれを実現する担当だったからです。数年続けているうちに、自分は設計をしているのか、それとも与えられた条件を満たしているだけなのかが、分からなくなってきました。
三十歳を過ぎた頃に、このまま担当範囲を深めていく道もあるけれど、一度、装置全体を考える仕事をしてみたいと思うようになりました。規模が小さくなったとしても、最初から最後まで見られるほうがいい。転職活動では、その一点だけを基準にしています。
青澄の面接では、過去の装置の写真を見ながら「同じ装置を繰り返し設計することは、ほとんどありません」と説明されました。面白そうだと思った一方で、自分の経験がどこまで通用するのかという不安もありました。搬送は分かっても、カメラも照明も触ったことがなかったからです。
最初の案件で、
きれいな図面を
描きすぎた
入社後、最初に主担当になったのは、小型の樹脂部品を検査する装置でした。私は干渉がなく、寸法も整った設計をつくることに集中していました。前職ではそれが評価される環境だったので、当然のつもりでいたのだと思います。
ところが組立が始まると、製造担当からの指摘が続きました。この位置では六角レンチが振れない。調整するときに手元が見えない。カバーを外さないとセンサーに届かない。いずれも図面の上では成立しているのに、人の手が入らない場所でした。
正直に言えば、最初は言われるたびに落ち込んでいました。自分の設計を否定されているように感じたからです。ただ、何度かやり取りするうちに、製造担当は装置を良くするために言っているのだと分かってきました。完成後に顧客が困る前に、社内で見つけてもらえている。そう考え方を変えられたのは、一年目の終わり頃だったと思います。
今は構想の段階から製造担当に相談しています。工具の入り方、配線の経路、部品を交換するときの手順まで、図面を引く前に確認しておく。設計レビューに組立経験のある人が入っているのは、青澄の強みだと思います。大きな会社では、設計と製造がここまで近くにいることはありませんでした。
図面を引く前に、
顧客の工場へ行く
新しい案件が始まると、まず顧客の工場へ見に行きます。カタログ品を売る仕事ではないので、その工場のどこに、どういう形で装置が入るのかを見ないことには、設計の入口にすら立てないからです。
見るのは製品だけではありません。ラインのどこに置くのか、天井の高さはどれくらいか、既存の設備との隙間は何ミリあるか。搬入経路も確認します。通路の幅と、扉のサイズと、曲がり角。ここを測っておかないと、完成した装置が工場に入らないということが実際に起こります。
それから、検査をしている人の様子を見ます。どういう姿勢で、一日に何個、どのくらいの速さで見ているのか。手が止まるのはどんなときか。写真とメモを持ち帰って、社内で共有します。この段階では、まだ一本も線を引いていません。
前職では、こうした現地調査は生産技術ではなく別の部署の仕事でした。仕様書だけを受け取って設計していた頃と比べると、装置に対する納得感がまるで違います。自分で見てきた条件なので、後から変更が入っても、なぜそうなるのかが分かるからです。

顧客の言葉を、
そのまま
要件にはしない
顧客から「0.3ミリの傷を見つけたい」と言われても、それだけでは設計できません。傷はどこに出るのか、向きは一定か、製品はどの速度で流れてくるのか。そして、見逃したときに何が起きて、逆に良品を弾いてしまったときに何が起きるのか。背景を聞かなければ、どこに軸足を置くべきかが決まらないからです。
実際、見逃しを絶対に避けたい案件と、過検出を減らしたい案件とでは、つくる装置がかなり変わります。前者であれば少し厳しめに判定して人が最終確認する流れにできますし、後者であれば安定して撮れる条件をつくるほうに手をかける。同じ「0.3ミリ」でも、答えは一つではありません。
それに、検査精度を上げるより、製品の向きをそろえる機構を工夫したほうが安定することもあります。カメラの問題に見えて、実は搬送の問題だったというのは珍しくありません。傷が見えないのは、傷が小さいからではなく、毎回違う角度で流れてくるからだった、というように。
お客様の「できない」を、機械、制御、運用に分けて考える。そこから設計が始まります。分けてみると、いちばん効くのが自分の担当ではないこともあって、そのときは正直に、機械ではなく照明でいきましょうと言います。
自分の設計が現場で
変わることを、
面白がれるか
青澄の設計は、図面を出して終わりではありません。組立の途中で変更が入り、試運転でまた考え直し、納品先で微調整することもあります。一台の装置に、何度も手が入るということです。
自分の図面を守ることが目的になっていると、この仕事はつらいかもしれません。装置が安定して動くことを目的にできれば、現場から返ってくる意見は設計を良くする材料になります。ここは向き不向きがはっきり出るところだと思います。
一台を最初から最後まで見られる分、責任も軽くはありません。うまくいかなかったとき、原因が自分の判断にあることは普通にあります。逃げ場のない仕事です。
それでも、納品先で装置が動いて、顧客から「これで検査員の負担を減らせる」と言われたときには、自分が何のために設計したのかがはっきり分かります。前の会社で担当していた搬送機構も、きっと誰かの役に立っていたはずですが、その声が自分のところまで届くことはありませんでした。
図面には残らない
ことを、残したい
今は、過去の装置で起きた設計変更を、理由と一緒に記録に残す取り組みを進めています。図面を見れば、最終的にどうなったかは分かります。ただ、なぜその形にしたのか、どの案を捨てたのかは、どこにも残っていません。
青澄には四十年分の装置がありますが、判断の理由の多くは人の頭の中にあります。「あの機構はやめたほうがいい」と言えるベテランはいても、なぜやめたほうがいいのかは、聞かなければ出てきません。今後五年で何人か定年を迎えるので、聞ける時間は無限ではないということです。
ベテランの経験をルールに閉じ込めたいわけではありません。同じ場面でも、条件が違えば答えは変わるからです。残したいのは正解ではなく、若い人が次の判断をするときの材料だと考えています。
設計の仕事だけでなく、会社の技術をどうつないでいくかにも関わっていきたいと思っています。自分が入ってきたときにこういう記録があったら、どれだけ助かっただろうと思うからです。
ある一日の流れ
| 08:30 | 出社。メールを確認し、進行中の三案件それぞれの状況を整理する。 |
|---|---|
| 09:00 | 3D CADで機構設計。今週は樹脂部品の位置決め機構を検討している。 |
| 10:30 | 組立フロアへ。先週出した図面について、製造担当と現物を見ながら確認する。 |
| 12:00 | 昼休憩。工場二階の休憩室。設計も製造も同じ部屋で昼を取る。 |
| 13:00 | 顧客とのオンライン打ち合わせ。検査条件と、判定をどこまで装置に任せるかをすり合わせる。 |
| 14:30 | 図面を修正。変更した箇所は、理由をセットで設計メモに残す。 |
| 16:00 | 部品の手配と納期の確認。長納期の部品は、構想の段階で先に押さえておく。 |
| 17:30 | 退社。立ち上げが重なる時期以外は、この時間に上がれている。 |
3人に同じことを
聞きました
入社前に不安だったことと、実際はどうでしたか。
大きな設備の一部分しか経験がなかったので、通用するのかどうかが不安でした。実際には、通用した部分と通用しなかった部分がはっきり分かれています。機構の考え方はそのまま使えた一方で、決まった仕様を満たすという進め方は、ここでは通用しませんでした。仕様を自分でつくる側に回るまでが、いちばん時間のかかったところです。
休みの日は何をしていますか。
古い道具を分解しています。ミシンとか、フィルムカメラとか。動かなくなったものを買ってきて開けてみると、なぜこの部品がここにあるのかが分かって面白いんです。職業病だと思います。あとは立川まで出て本屋に寄るくらいでしょうか。
どんな人と働きたいですか。
自分の考えを、途中で変えられる人がいいと思います。設計は、最初に立てた案が最後まで正しいことのほうが少ないからです。指摘されたときに守りに入らず、それなら別の手を考えようと切り替えられる人は、この仕事で確実に伸びます。



