一度動く装置から、動き続ける装置へ。画面の中の判定を、顧客の現場で再現し続けるために。そして、その考え方を次の世代へ渡すために。
入社当時は、
画像検査の専門家
ではなかった
大学は電気電子でしたが、画像処理が専門だったわけではありません。就職の時期が、ちょうど景気の悪いときでした。地元で設計の仕事を探していて、会社説明会で装置のデモを見た。それが入社のきっかけです。
カメラが傷を見つけて、不良品だけが別のレーンへ排出される。画面の中で計算した結果が、機械の動きにつながる。面白いと思いました。プログラムだけでも、機械だけでもない。
入社後は、先輩のプログラムを読みながら小さな改修から覚えました。当時は今のようなライブラリもありません。しきい値の決め方ひとつでも、先輩のコードを追いかけて理由を推測するところからです。最初の数年は、装置が一度動くだけでうれしかった。
画像検査の知識は、入ってから身につけたものです。採用で経験を必須にしていないのは、そのためでもあります。前提が毎回変わる仕事です。知識の量より、分からないものを分解していける人のほうが向いています。
一度動くことと、
現場で動き続ける
ことは違う
忘れられない案件があります。若手の頃に担当した検査装置です。社内テストでは何度やっても問題なく動いていました。ところが顧客の工場へ設置すると、午前と午後で判定が変わる。同じ製品を流しているのに、結果が一致しない。
原因は、近くのシャッターから入る外光でした。時間帯によって光の入り方が変わり、画像の明るさに影響していた。社内の建屋では再現できない条件です。判定がずれる時間帯と、シャッターが開く時間帯が一致していると気づくまでに、二日かかりました。
照明を囲うカバーを追加して、判定条件も見直しました。装置が再び動いたときより、数日後に「安定しています」と連絡をもらったときのほうがうれしかった。動いた瞬間は、まだ何も証明できていません。
それ以来、プログラム上の正しさだけでは足りないと考えるようになりました。現場の温度、光、振動、製品のばらつき。今の若手にも、社内テストが通った時点を完成だと思うな、と言っています。
2009年の青澄と、
今の青澄
入った頃は、制御盤の製作が仕事の中心にありました。図面は紙が多い。検証も、装置を組んでからでないとできません。分からないことは、先輩の手元を見て覚えるしかなかった。教えないというより、教える言葉がまだなかったのだと思います。
いちばん変わったのは、二〇二二年に画像検証室ができたことです。顧客からサンプルを預かって、装置をつくる前にカメラとレンズと照明の組み合わせを試せるようになりました。それまでは、組んでから「見えません」と分かることがあった。手戻りの大きさがまるで違います。
人も変わりました。私が入った頃は、二十代がほとんどいません。若手といえば私のことでした。今は二十代、三十代の中途入社が増えて、部門をまたいで普通に話しています。設計と製造が昼を同じ部屋で取るのも、昔からそうだったわけではありません。
古い体質が完全になくなったとは言いません。長くいる人ほど、言葉にしないまま持っている判断があります。ただ、それを外に出す必要があるという認識は共有できている。「見て覚えろ」で済ませる空気は、もうありません。

青澄の仕事は、
境界が曖昧
制御設計だからプログラムだけ、とはいきません。画像が安定しなければ、照明の位置を機械設計と相談します。センサーが調整しにくければ、製造担当と現物を見る。顧客へ検査条件を説明しに行くこともあります。
先日も、判定が不安定だという相談を受けて現場へ行きました。原因はプログラムでも照明でもない。ワークを置く治具の、わずかなガタでした。制御の問題として持ち込まれたものが、機械の問題だった。逆のパターンもあります。
担当範囲が広いことを、負担に感じる人もいると思います。専門を深く掘りたい人には向かないかもしれません。逆に、自分の仕事が装置全体のどこにつながっているかを知りたい人には面白いはずです。
リーダーになって、
答えをすぐ言わない
ようになった
以前は、若手に質問されるとすぐ答えていました。そのほうが早いからです。納期が迫っているときは特に、自分がやったほうが確実だと思っていました。
ただ、それを続けると、自分がいないと判断できない状態が固定します。実際、私が現地に出ている週は社内の判断が止まる、ということが何度かありました。本人たちの問題ではありません。私のやり方の問題です。
今は「どこまで確認した」「前と変わった条件は何だと思う」と聞きます。少し遠回りでも、答えではなく確認の順番を共有したい。順番さえ持っていれば、私が知らない不具合にも自分で入っていけます。
もちろん、納期が迫っているときや、安全に関わることはその場で判断します。任せることと放置することは違う。どこまで見守るかは、今も難しいですね。毎回迷っています。
失敗させる範囲を、
決めておく
任せるときは、先に線を引きます。ここから先に行くと顧客に迷惑がかかる。装置を壊す。人が危ない。この三つです。内側なら、遠回りしても口は出しません。
若手が私とは違う方法を選ぶことがあります。私なら判定条件を触るところを、照明の当て方から変えにいく。半分くらいは、私のやり方のほうが速い。ただ、残りの半分では、こちらが思いつかなかった解き方が出てきます。
線を引いておくと、こちらも黙って見ていられます。線がないと、不安になって途中で口を出してしまう。それでは任せたことになりません。線を引くのは、本人のためでもあり、自分のためでもあります。
やり直しになった分の工数は、こちらで見込んでおきます。それを含めて工程を組むのがリーダーの仕事です。余裕がゼロの計画を立てておいて失敗するなと言うのは、順番が逆でしょう。
技術を残すことも、
設計の一部
今は、装置の立ち上げ時に確認する項目を、チェックリストと事例集にまとめています。これまでは「画像が不安定なら佐伯に聞く」となりがちでした。それでは会社の技術になりません。
事例集には、症状と、疑った順番と、結果を書いています。外光だったのか、振動だったのか、治具のガタだったのか。原因そのものより、どういう順番で疑っていったかのほうが、次に効きます。
すべてをマニュアルにできるとは思っていません。条件が違えば同じ手は使えませんし、書いた瞬間から古くなります。ただ、何を疑い、どんな順番で確認するかは共有できる。
若手が自分とは違う方法で問題を解決したとき、技術が渡ったというより、先へ進んだと感じます。自分一人で直すより、そのほうがうれしいですね。
ある一日の流れ
| 08:30 | 出社。メールを確認し、立ち上げ中の案件と、社内で進んでいる案件の状況を見る。 |
|---|---|
| 09:00 | 制御プログラムの作成と修正。まとまった時間が取れるのは、この時間帯が多い。 |
| 10:00 | 若手からの相談。画面を一緒に見ながら、どこまで確認したかを聞く。 |
| 11:00 | 画像検証室で、顧客から預かったサンプルの撮像テスト。レンズと照明の組み合わせを変えて試す。 |
| 12:00 | 昼休憩。工場二階の休憩室。設計も製造も同じ部屋で昼を取る。 |
| 13:00 | 設計レビュー。機械設計、製造と三人で、構想段階の装置を見る。 |
| 15:00 | 立ち上げの準備。チェックリストを案件に合わせて更新し、事例集に追記する。 |
| 17:30 | 退社。現地立ち上げの週は、顧客の工場近くに宿泊することもある。 |
3人に同じことを
聞きました
入社前に不安だったことと、実際はどうでしたか。
新卒だったので、不安というより何も分かっていませんでした。周りには、なぜ地元の小さい会社なのかと言われましたね。実際は、一年目から装置の一部を任されて、三年目には自分の担当として現場に出ています。大きな会社に行った同級生と話すと、任される時期がずいぶん違いました。
休みの日は何をしていますか。
中学生の子どもの部活の送り迎えが多いですね。あとは庭の手入れです。土曜に一日かけて草を抜いて、月曜には元に戻っている。効率の悪いことをやっている時間が、意外と頭の整理になります。
どんな人と働きたいですか。
うまくいった理由を説明できる人です。装置が動いたときに、なぜ動いたのかを言える人は、次に動かなかったときも自分で戻れます。いろいろ触っているうちに直った、で終わる人は、同じ場所で何度もつまずく。結果が同じでも、そこはまったく違います。



